hayanoquizへの回答(完結版)

先日載せた、早野教授の問題集への答えの編集・改良版です。大きなミスは無かったのですが、時間切れで答え途中だったものや、少し説明不足だったものを編集しました。


間違いを見つけられた方や、質問のある方は、遠慮無くどうぞ。(インターネット環境のために、編集ミスがいくつかありました…)


問題はこちら 早野氏(@hayano)からの原子力・放射線に関する出題(3/19日出題分) - Togetter


投稿された中でのベストアンサーも、あります。 http://hiroshijp.com/?p=238


ただ、ベストアンサーの投票の選択肢から、僕の答えがいくつか抜けてたんですよね(笑)いや、正解が最終的に伝われば、誰の答えであろうと関係ない事ですが。

  • 【理系学生必修】今,半減期8日のI-131原子核が10000個あったとします.8日後に何個残っているか答えなさい.最初の数が2個の場合はどうでしょう?


まず、大雑把な答えから。「半減」期というからには、元の数の半分になっている。5000個と、1個。


ただこれは、あくまで実験結果の平均値。なぜかというと、原子核の崩壊は、確率的なプロセスだから。厳密には、残っている数の確率分布を答えなければならない。それぞれの核が崩壊する確率が50%で、さらに、ある特定の核が崩壊するかどうかは、他の核が崩壊したかどうかとは独立。つまり、コインを10000回、2回投げるのと同じで、二項分布になる。


10000個から始めた場合に、8分後残っている原子核の数の確率分布をグラフにすると、

ちょうど5000個になる確率は、1%以下と分かる。


2個から始めた場合、1/4の確率で0個、1/2の確率で1個、1/4の確率で2個、残っている。

  • じゃ最初の数が1個だったらどう?


半減期が過ぎた時点で、1つの原子核が崩壊している可能性は、50%。

  • 【物理学生必修】ヨウ素(I-131)が検出されたと報じられています.I-131であることを確認する原理を,100字以内で述べよ.


I-131の崩壊には、特有のγ線スペクトルが伴う。計測されたγ線のスペクトルに、I-131のスペクトルに含まれる鋭いピークが見つかれば、I-131が存在する事が分かる。

  • 【物理大学院生必修】I-131を検出するのに必要な測定器と,その測定原理について述べよ



(理論屋にとって最難問)特定のエネルギーのγ線を検知するために、γ線検出器が必要。ゲルマニウムを使った検出器の場合、半導体ゲルマニウムを含む装置に電圧をかけておく。あるエネルギー以上のγ線が半導体に当たる際に生じる電子と正孔のペアが、電圧によって加速され、電極に辿りつく。これによって、電極に溜まる電荷の量が、計測されるべきγ線の量にほぼ比例する。


ゲルマニウムを使った検出器は、溜まる電子の数が多く、統計誤差が抑えられ、高い分解能でエネルギーが測れるとの事。

  • 【物理大学院生選択問題】I-131が出す放射線の種類をすべて述べよ.I-131であることが確認できる放射線の種類とそのエネルギーを述べよ.
β線 最大エネルギー(keV) 確率(%)
606.3 89.4
333.8 7.4
247.9 2.1
γ線 エネルギー(keV) 確率(%)
80.2 2.6
284.3 6.1
364.5 81.2
637.0 7.3
722.9 1.8

(どちらも、崩壊の1%以上で放射されるもののみ挙げた)


I-131は、まずβ崩壊によって、Xe-131の励起状態に変化する。その後、Xe-131の基底状態に、γ崩壊によって辿りつく。β崩壊では、β線(電子)だけでなく、反ニュートリノも放射され、崩壊エネルギーが分割されてしまうので、β線のスペクトルは連続的になり、I-131の特定には使い難い。γ線は、崩壊エネルギーのほぼ全てを運ぶので、スペクトルのピークに対応し、I-131である事の確認に使える。


参照 http://www.nndc.bnl.gov/chart/decaysearchdirect.jsp?nuc=131I&unc=nds

  • 【地球物理学生必修】天然放射線による被曝量が,その人が住んでいる地域によって異なる理由を,簡潔に答えなさい.


標高が高ければ高いほど、宇宙線の、大気によって遮られる量が減り、地上での被曝量が増える。宇宙線はまた、地磁気の影響で、降り注ぐ量が地域によって変わる。地質に含まれる放射性物質の量も、地域によって違う。

  • 【理系学学部生必修】半減期Tの放射性物質の個数Nの時間変化N(t)をあらわす微分方程式を即答せよ.


1つ1つの原子核が崩壊する確率は等しく、独立なので、Nの時間微分はNに比例する。微分方程式は、


これの解は なので、半減期Tと崩壊定数λの関係は、 と分かる。

  • 【理系院生選択】放射性物質の崩壊とPoisson分布の関係について簡潔に述べよ.


ある時間内に、サンプル内で崩壊の起こる回数の予測される値が、不安定な原子核の総量よりも極小さい場合、この時間内に起きる崩壊の回数は、ポワソン分布で近似される。


ポワソン分布は、「何回でも起こる可能性があるけれど、いつ起こるかは全くランダム」という事が起こる回数を表す分布。「何回でも起こっていい」という部分は、放射性物質の崩壊には当てはまらない(粒子の数に限りがある)。ただ、回数の限界を無視していい場合(崩壊数≪総数という場合)には、近似として有効。



これは、10000個の放射性物質のうち、平均10個が崩壊する時間が経った後の、崩壊数の分布。厳密には、二項分布(青)だが、これはポワソン分布(赤)で近似出来る事が分かる。というか、重なってしまって、赤が見えない。

  • 【理系学生選択】測定値15020 Bq/kg などと報じられていますが,同じサンプルを,その直後にもう一度測定するとどうなると考えられるか,簡潔に記しなさい.http://bit.ly/eAWzLW


I-131の半減期は、測定間の時間よりもかなり長いので、I-131の量は変化が無いと言っていい。ただし、測定自体に統計誤差があるので、最初の測定と同じ値が出るとは限らず、最初の測定値と統計誤差から、分布が予測される。

  • 【理系学生必修】報道やWebで使われている単位, Sv, Sv/h, Gy, Gy/h, Bq, Bq/kgについて,簡潔に説明してください.


Gy(グレイ)は、物質1kg当たりの、吸収した放射線のエネルギー(J単位)。放射線の被曝量の単位。Gy/hは、1時間毎の被曝量。


Sv(シーベルト)は、Gyで測った被曝量に、人体への悪影響を考慮した補正を加えた物。例えば、中性子の被曝は、X線の被曝よりも危険で、同じ1Gyの被曝量、つまり吸収したエネルギーが同じでも、Svで測った場合には中性子の被曝の方が大きい値になる。Sv/hは、1時間毎の、Svで測った被曝量。


Bq(ベクレル)は、放射性を持ったサンプルから、1秒間に、原子核の崩壊によって放射線が発せられる回数。放射能の量。Bq/kgは、ある物質の1kg毎の、放射能の量。