ニュートリノって何?(その3〜ニュートリノの発生源)

ここまでの話↓
ニュートリノって何?(その1〜ニュートリノ説誕生) - 物理学と切手収集
ニュートリノって何?(その2〜ニュートリノ発見) - 物理学と切手収集


前回のおさらい:ニュートリノは、原子核がβ崩壊したり、電子捕獲をする時に作られて、原子核にぶつかると吸収される事があります。原子炉から出てきたニュートリノがターゲットの原子核に吸収されるのが観測された事で、ニュートリノ発見となりました*1


さて、ニュートリノは原子炉からだけではなく、色々なものから出ています。今回はニュートリノはどこから出てきてるのかという話。

太陽

原子炉からニュートリノが出てくるのは、中にある放射性物質がβ崩壊をして、電子と反ニュートリノが出てくる、という仕組みでした。β崩壊は、中性子が陽子に変わる反応です。前回見たように、中性子が陽子に変わったり、陽子が中性子に変わる際には、ニュートリノが出てきます。世界に色々な元素があって、生命が可能になっているのはこういうプロセスのおかげ*2。それが起こっている場所からはニュートリノが出てきている事になります。


陽子と中性子の入れ替わりが起こっている場所の一番身近な例は、太陽。太陽が何で出来てるかというと、↓こんな感じ。



太陽の質量のほとんどは水素とヘリウムの原子核で、他には炭素や酸素の原子核。これらの原子核と、電子が飛び交っているのが太陽、という事になります。太陽が「燃えて」いるのは、主に水素をヘリウムに変える反応のためです。普通の水素の原子核は陽子1つだけ。その4つが「核融合」して、陽子2つ、中性子2つでできたヘリウムの原子核になります。人間が核融合発電をする日が来るのかは謎ですが、今使っているエネルギーのほとんどは元をさかのぼれば太陽での核融合のエネルギーです*3



この反応では、4つの陽子のうち2つが中性子にならないといけません。太陽がヘリウムの原子核を1つ作るたびに、ニュートリノが2本出てきてるという事になります。この反応*4は昔から研究されていて、どういうニュートリノが出てくるのかも良く分かっています*5



色々なルートで陽子(p)がヘリウム-4(4He)になり、途中でニュートリノ(ν)が出てくるのが分かります。


↓ニュートリノで撮った太陽の「写真」なんてものもあります*6。岐阜県神岡町のスーパーカミオカンデで観測されたニュートリノの量をプロットすると、こんな絵が出来るんですね。ただこれ、解像度はかなり悪く、中心の明るい部分は20度くらいの広がりがあります(笑)


超新星

他の恒星でも核融合は起こっています。ただ、太陽以外で一番近いケンタウロス座α星*7でも、太陽の30万倍近くの距離なので、出どころが特定できるような観測は地球では出来ません。安定して燃えている星ではダメで、もっと一気にニュートリノを放出してくれる事がないと、遠くの星からのニュートリノは見えないんです。というわけで、超新星爆発です。大雑把に、II型超新星というタイプの超新星爆発の仕組みを解説します。


このタイプの超新星で何が爆発するかというと、太陽よりも10倍くらい重い星になります*8。このような重い星の中心では、核融合でどんどん大きな原子核が作られていって、最終的に鉄の原子核が作られます。鉄-56が一番安定した原子核なので*9、鉄より重い原子核はほとんど作られません。鉄になったら燃料切れ、と言う事です。


燃料切れになると、鉄で出来た星の中心は自らの重みに逆らえずに潰れてしまいます。具体的にどうなるかというと、鉄の中にある陽子が電子を吸収して、中性子のかたまりになってしまいます。これが中性子星のたまご。陽子が中性子に変わるこの時に、大量のニュートリノがまず作られます。



*10


星の中心が潰れた後、周りの物質は一気に真ん中に向かって落ちていきますが、中心が中性子星の大きさまで潰れると、それ以上潰せないので跳ね返されます。



この、一番密度と温度の高くなった時に、普段は起こらない方法で*11ニュートリノが作られて、放出されます。光は、そこらの電子などに当たってなかなか星の外に出られませんが、ニュートリノは比較的スルリと出てきてしまうので、実は超新星爆発のエネルギーの大半は、この爆発開始後10秒くらいのニュートリノによって放出されます。


超新星ニュートリノが観測されたのは1987年のこと。16万光年離れた大マゼラン銀河で起こった超新星の時でした。この時、カミオカンデなどのニュートリノ検出器で合計24個のニュートリノが観測されました。実はこの超新星からは、ニュートリノの方が光で爆発が見える3時間先に観測されています。これは、ニュートリノが光より速いという事ではなくて、前の段落に書いたようにニュートリノの方が光より出て来やすい、という事です。ニュートリノが放出された後も、光は閉じ込められてたんですね。ニュートリノが3時間しか早く届かなかった、というのは、去年のOPERAの発表の際、ニュートリノが光速を超えている可能性は低いと考えられる理由にも挙げられました。*12

大気

もう1つ宇宙に関わるニュートリノ源があります。地球から大気圏の外に出ると、放射線が増えるというのはご存知かもしれません。これは、陽子や電子、原子核などが飛び交っているからです。これが宇宙線。地上には、大気と地磁気のおかげで宇宙線のうちごく少量しかたどり着きません。


さて、宇宙線が大気にさえぎられる時にはどういう事が起こるんでしょうか。下に描いたのは、これでニュートリノが作られる代表的な反応です。



まず、宇宙線の陽子が空気中の原子核*13に当たります。この時に、π(パイ)中間子という粒子が作られる事がよくあります。湯川秀樹が予測した核力を伝える粒子ですね。電荷を持ったπ中間子は、ミューオン(または反ミューオン)という粒子に崩壊します*14。この際に、まずニュートリノが1本出てきます。


ミューオンは、電子をそのまま重くしたような粒子で*15、これまた不安定な粒子で、崩壊する時には電子(反ミューオンの場合は陽電子)とニュートリノを2本出します。電荷を持ったπ中間子が作られるたびに、ニュートリノが合計3本出てくるわけです*16。ミューオンは、次回のニュートリノの種類の話に深く関わってきます。


以上、太陽ニュートリノ、超新星ニュートリノ、大気ニュートリノが、自然界で観測されている主なニュートリノ3種類でした。自然にあるβ線を出す放射線物質もニュートリノ源ですが、この3つと比べると数は少なくなります。ただ、この「地球ニュートリノ」を使って、地球の内部を探ろうという研究もあります*17

加速器

現代のニュートリノ実験で重要な人工のニュートリノ源は、原子炉の他に粒子加速器があります。OPERA実験で使ったのも、スイスのCERNで人工的に作られたニュートリノでした。どうやって作るかというと、実は↑に描いた大気ニュートリノの図そのまんまです。ターゲットに陽子をぶつけて、π中間子→ミューオン→ニュートリノ、と作るんですね。


ニュートリノに関しては、人間の考えるような事は宇宙がもうやっているようです。


次回、パリティ対称性の破れとニュートリノの関係、そしてニュートリノの種類について書こうと思います。(書きました

*1:ニュートリノと反ニュートリノの区別は、今回はしません。この区別については、多分次回。

*2:この話もいつかしたいです。

*3:例外は原子力発電と地熱発電。

*4:陽子-陽子連鎖反応、ppチェインなどと呼ばれます。

*5:図は「[0808.0735] Neutrino Astrophysics」より。

*6:APOD: June 5, 1998 - Neutrinos in the Sun」より。

*7:正確にはプロキシマ・ケンタウリ

*8:違うタイプの超新星は、爆発する元の星が違います。例えばIa型の元は白色矮星と考えられています。

*9:厳密には、核子ごとの質量が最小の原子核が鉄-56。核子ごとの束縛エネルギーは、ニッケル-62の方が大きいですが、これはニッケル-62の中性子(陽子よりわずかに重い)の割合が高いため。

*10:中性子星は途中で面倒になった(笑)実際には100%中性子ではなく、陽子と電子も少量混じっています。

*11:ズルですが、説明すると長くなるので失礼…

*12:例:「Supernovas and Neutrinos | Of Particular Significance 」、「ryugo hayano on Twitter: "この割合で早く届くなら1987aの場合は4年早く届いた計算に! @Mihoko_Nojiri: これ、データ収集の時間レスポンスどうやって評価してると思います? http://t.co/A4jdnES1 @bunogeto"

*13:窒素や酸素が主のはずですね。

*14:中性のπ中間子もあって、これは主にγ線2本になります。

*15:質量は電子の約200倍。電荷など一緒。

*16:小さい確率で、π中間子が直接電子に崩壊することもあります。

*17:KamLAND | カムランド実験のやさしい紹介 ~ニュートリノの謎に迫るカムランド実験~