マリ紛争と音楽

フランスの介入で当面は落ち着いている西アフリカのマリ北部紛争を、マリの音楽を通して見てみようと思います。といっても、フランス語含めて現地の言語を聞くだけで理解出来るわけではないので、表面だけ見ているようなものですが、紛争に触発されて、そしてそれと関係なく、マリという場所で良い音楽が作られてるというのが伝えられれば幸いです。


まず、マリの地理と紛争のおさらい(詳しくはウィキペディア記事)。マリの北部はサハラ砂漠で、首都のバマコ含めて人口のほとんどは南部、主にニジェール川沿いに住んでいます。砂漠の方では、定住しているソンガイ族などの他に、国境も自由に行き来するような遊牧民のトゥアレグ族などが住んでいます。マリ人の多くは黒人で、北アフリカの人達により近いトゥアレグ族などは例外になります。そして宗教的には90%以上がイスラム教徒です。


今回の紛争は2012年の初め頃、トゥアレグ族の独立運動として始まり、4月には北部マリの主要な都市を制圧した反乱軍がアザワドという国名で独立を宣言しました。しかしその後、反政府で同盟を組んでいたイスラム過激派の勢力が強くなり、ほとんどの都市をイスラム過激派に乗っ取られてしまいます。過激派によって古都トンブクトゥの遺跡などが破壊されてしまったのは大きく報道されたと思います。


これと同時進行で首都のバマコでは3月にクーデターが起きるなどして、マリ政府は全くと言っていいほど北部での反乱に対応出来ていませんでした。そこで2013年の1月に元宗主国のフランスが国連の許可を得て軍事介入。日本で大ニュースになった隣国アルジェリアでの人質事件は、この介入が背景にありました。フランス軍の作戦はとりあえず軍事的には成功し、今のところ反政府勢力は弱まっていますが、これから安定した政治の基盤が作れるのか、という面ではまだ不安が大いに残ります。


ではでは、音楽に行きましょう。

トゥアレグ族

まずはトゥアレグ族の音楽。色んな意味で抜かせないのがティナリウェン(Tinariwen)。このバンドの結成の経緯はこの紛争とも大いに関係があります。80年代にリビアのカダフィ大佐は、隣国のトゥアレグ族の独立運動を支援し、トゥアレグの若者達を呼んでトレーニングをしていました。ティナリウェンが結成されたのはその駐屯地での事。ティナリウェンはもう戦っていませんが、カダフィ大佐がいなくなった事で軍事訓練を受けたトゥアレグがマリに戻っていき、それが今回の戦乱の原因の1つになりました。


2011年には既にマリ北部は危険になっていたようで、アルバムの録音はアルジェリアで行われていました。

Tassili

Tassili


基本的には、グルーヴ感のあるトゥアレグの民族音楽をエレキギターに乗せたかっこいい音楽ですが、"Tassili"はビデオにも出て来るようなアメリカのアーティストとの共演を含めて、色々と冒険したアルバムでした。


イスラム過激派には音楽を禁止しようとしたものもあって、ティナリウェンはターゲットとなってしまったとか。現在も避難中で、一番最近のアルバムはアメリカで作られました。

Emmaar

Emmaar


もう1つマリのトゥアレグ音楽で紹介したいのはタミクレスト(Tamikrest)。ティナリウェンよりも若いグループです。去年出したアルバムのタイトル"Chatma"はSistersと言う意味で、戦争で苦しむ女性達に捧げたそうです。

Chatma

Chatma


曲の中では、レゲエの入ったItousが個人的には好き。トゥアレグ音楽の可能性を広げる意味では、このアルバムでティナリウェンを越えたと思います。かなりオススメ。


トゥアレグ音楽が気に入った方は、隣のニジェール出身のBombino、Etran Finatawaもチェックしてみてください。

砂漠のブルース

北部マリに定住している人達の音楽で有名なのは、砂漠のブルースとも呼ばれる独特のスタイルのギターで世界に知られるようになったアリ・ファルカ・トゥーレ(Ali Farka Toure)です。彼は2006年に亡くなりましたが、彼に直接影響を受けた人達が今回の紛争を受けて音楽を作っています。


まずアリのバンドに参加していたサンバ・トゥーレ(Samba Toure)。

Albala

Albala


アリのスタイルを踏襲した音楽と言って良いと思いますが、緊迫感のある録音です。


次に、アリの息子、ヴュー・ファルカ・トゥーレ。アリよりも「エレキギターですよ」という音楽を主にやっている印象でしたが、前回のイスラエルのイダン・ライヒェルとの共演と

Tel Aviv Session

Tel Aviv Session

今回の"Mon Pays"(フランス語でMy Countryの意味)は、どちらも音量を抑えたアルバムになってます。
Mon Pays

Mon Pays


↑このPeaceという曲は、シディキ・ジャバテ(Sidiki Diabate)との共演。シディキの演奏するコラはハープのような楽器で、シディキの父トゥマニ(Toumani Diabate)が今一番の名奏者。アリとトゥマニの共演も素晴らしかったので、いつかは起こっただろうという息子達のコラボ。今後も楽しみです。


北部マリからはもう1人、シディ・トゥーレ(Sidi Toure)。名前が紛らわしいですが、アリ・ファルカ・トゥーレと直接の関係は無いはずの人。"Alafia"の意味は平和。

Alafia

Alafia


似た系統の音楽なのは分かりますが、タッチがかなり軽いです。

グリオ

トゥマニやシディキ・ジャバテに代表されるのが、南部マリの音楽の中心になるグリオ(ジェリ)の伝統です。グリオは、世襲制で芸を何百年も受け継いできた人達で、地域の歴史を伝える語り部です。昔の日本にいたとしたら平家物語、古代ギリシャだったらトロイ戦争の話を歌っているような人でしょうか。それが身分制度として現代にも存在するのがマリの社会ということです。


同じくコラを演奏するバラケ・シッソコ(Ballake Sissoko)が出したのは、"At Peace"というアルバム。

At Peace

At Peace


トゥマニとコラ2本の共演だった"New Ancient Strings"、チェロとの共演"Chamber Music"に続いて、瞑想するような音楽です。
New Ancient Strings

New Ancient Strings

Chamber Music

Chamber Music


逆に感情を表に出してきたのがバセク・クヤテ(Bassekou Kouyate)。彼もグリオですが、ンゴニというバンジョーのような楽器にアンプを付けてます。

Jama Ko

Jama Ko


PVはあまり紛争と関係無いように見えますが、みんなで集まって音楽やって踊るのがマリの文化だよ、という抗議だそうです。他にも、イスラム主義に対抗した過去の偉人について歌った曲などあって、こういうのがグリオの役割なのだろうな、と思わされます。


グリオのギタリスト、ハビブ・コワテ(Habib Koite)のアルバムは、いつも通りの楽しい音楽を大体やってますが、"Soo"はHomeの意味で、同じタイトルの曲は明確に紛争を意識したものです。

Soo

Soo

その他

ロキア・トラオレ(Rokia Traore)は貴族の出身だという事で、本来は音楽をやるべきではないのだとか。

Beautiful Africa

Beautiful Africa


普通にかっこいいアフロポップです。


ファトゥマタ・ジャワラ(Fatoumata Diawara)は、女性ボーカルが表に出てくるワスル音楽の人。

Fatou

Fatou


彼女はマリの他のスターを集めて反戦の歌を録音したり、過激派に占領されたトンブクトゥを描いた映画に出演したりしているようです。

(この記事で名前を出した人も沢山出て来ます)


最後にですが、マリ北部では毎年Festival au Desertという音楽フェスティバルがあって、ここで紹介したようなアーティスト達が集まっていました。一度は行ってみたいイベントですが、現在は中断中。元通りに戻ってほしいものです。

Live from Festival Au Desert Timbuktu

Live from Festival Au Desert Timbuktu

追記

北部マリのガオ出身で、紛争のためにバマコに避難していた4人組がソンゴイ・ブルース(Songhoy Blue)というバンドを作ってます。このブログ記事を書いた直後に存在に気が付いたんですが、↓この1曲だけ出してたので追記は書かないでいました。

今年に入ってからMusic In Exileというアルバムを出していて、PVももう1つあります。

Music in Exile

Music in Exile


ここで紹介した中だとタミクレストと並んでオススメです。